コラム
ケアに関するコラム集です。
食べることは生きること― 本屋大賞と人生紙芝居
本屋大賞にハズレなし
どの本を読もうかと迷った時、本屋大賞を参考にしています。本屋大賞は、全国の書店員が「一番売りたい本」を選ぶ文学賞です。書店員による投票で、まずはノミネート作品として10作品が選ばれ、さらに、その中から大賞が決定します。
2025年本屋大賞に輝いた『カフネ』(講談社 阿部暁子著)も素晴らしい一冊でした。
家事代行サービスが物語の舞台で、カフネというのは、その会社の社名です。カフネでは、いつもサービスを利用してくれているユーザーの方々へサービス券を配布しています。この券はユーザー自身が利用できるのではなく、その方が気になっている家の人に渡して、「このサービスを試しに1回使ってみて」という無料お試し券になっています。会社としては、人件費も材料費も持ち出しの社会貢献活動ですが、新たなユーザーの開拓というPRも兼ねています。
料理のプロである女性社員・せつなと、掃除が得意でボランティアとして協力する主人公・薫子がコンビを組み、お試し希望があった家に訪問していきます。実はこの二人の関係性こそが、ミステリーの要素もあり、本書の最大の味わいになっているのですが、ここでは作中に登場する「料理」について触れます。
めしの力
二人が訪問する家には、それぞれの事情で家事が滞ってしまっている人たちが暮らしています。例えば、母親からのネグレクトが疑われるような幼い兄弟であったり、親の介護に疲れ果てた真面目過ぎる息子であったり、将来に希望の持てない引きこもりの少女がいたりします。
料理のプロ・せつなは、依頼者からの希望を聞きつつ、また、鋭い洞察力で最適な料理をその場で考え、限られた時間内で怒涛のごとく、いくつもの料理を作り上げていきます。その描写が、作家の手にかかると、こうも美味しいそうに感じられるのかというくらい見事で、「トマトとツナの豆乳煮麺」や「海賊がかぶりついているような大きな骨付き肉」、「カロリー大爆発、悪魔のガトーショコラ」など、実際に作って食べてみたくなります。
せつなの労りや願いが込められた料理を食べることで、登場人物の人たちが、忘れかけていた笑顔を取り戻し、生きる力が再び全身に蘇ってきて、どん底から抜け出し前向きに生きて行こうとする姿は、読んでいて痛快で、こちらまでパワーアップされた気分になります。『食べることは、生きること』。一貫してこのメッセージが心に伝わってきます。
人生紙芝居に登場する料理
人生紙芝居にも、実に多くの料理が描かれています。例えば、「戦争中の飢えをしのぐ蒸かし芋」、「家族で競争して食べたおやつの蒸かし饅頭」、「おふくろの味とも言えるカツオの潮汁」、「近所の蕎麦屋から出前で頼んだ天丼」、「バタークリームを使った手作りクリスマスケーキ」、「仕事仲間と呑み屋で注文するマグロの握り」、「狩猟で仕留めたイノシシ鍋」等々。主人公の方の思い出とセットになって描かれる一品。『食べることは、生きること』だから、人生紙芝居に数々の食べ物が登場するのは必然です。そして、その絵から、「家族の絆」や「母の愛情」、「仕事への情熱」、「ご近所との温かい繋がり」など、目に見えないものも伝わってきます。
頭を空っぽにして食べる
子どもの頃から胃が弱かった私。若い時に胃を手術していた父から、「これは家系だから仕方ない」と言われました。その父と店で焼き立ての今川焼を食べた時のこと。私の分の今川焼をちぎって、中のあんこを私のためだからと言って半分以上も抜き取り、自分が食べていた姿に、幼い私の頭はひどく混乱し、その時の怒りが半世紀以上経っても記憶に残っています。胃弱であっても、食べ物の恨みは怖いのです。
今でも、疲労や睡眠不足が溜まっていたり、悩みごとがあったりすると、すぐに胃痛となって表れます。胃潰瘍や十二指腸潰瘍も経験済み。食べ過ぎた後の胃もたれがつらいので、常に腹八分目を心がけ、暴飲暴食なんて怖くてできません。もしやと思ったら早めの胃腸薬。食べ歩きにも興味はなく、もともと食に対する期待値が低い人間です。
それでも、この胃袋のご機嫌をとりつつ、これからも私は、独りぼっちの食事であろうと、物価高で節約第一の料理であろうと、レンチンで手抜きのご飯でも、そんなことはお構いなしに、とにかく食べて、毎日食べて、死ぬまで食べて、生きて行きます。『食べることは、生きること』だから。
人生紙芝居を
作ってみませんか?
大切な人へ、人生の歩みを讃え、感謝を伝える唯一無二の贈り物