活用事例

実際に制作した人生紙芝居のエピソード集です。

人生はものがたり、自ら語る機会を作ろう

晩年に誰もが抱えている「人生総括欲」

人生紙芝居の個人制作の依頼を受けたBさんは90代後半の男性。最近、奥様に先立たれたことがきっかけになったのか、Bさんは「自分のこれまでの人生について、子どもたちに書き残しておきたい」と言って、広告の裏紙に鉛筆で文章を書き始めたそうです。

実物を拝見させて頂きましたが、まずは自身の出自を明らかにすべく、おじい様のことから書き始めていました。江戸末期の武士で、明治維新にかけての歴史的な戦いで勇敢に戦ったことが書いてありました。士族の出であるという誇りが伝わってくるようでした。続いて、お父様のことに話題が移ります。機関士として大型船に乗り込み、世界の海で仕事をしていた様子が書かれていました。さて、次は自分のことを、というところで、エネルギーが切れてしまったのか、筆が止まっていました。

年齢を重ね、死が近づいてくると、人は「自分の人生はどうだったのかなあ」と振り返ってみたくなります。それを私は勝手に『人生総括欲』と言っています。食欲や睡眠欲と並んで、特に高齢者にとって、『人生総括欲』は重要な欲求の一つなのですが、残念ながら介護の現場で、これに対するケアの優先度は高くありません。
高齢者の中には、自叙伝を執筆して自費出版し、親戚や知人に配る方もいますが、それは極一部の人たちに限られます。Bさんも人生総括欲に駆られながらも、それ以上書き進めることができなかったようです。

高齢者にとって紙芝居はノスタルジーを感じるアイテム

そんなお父様の姿を見た息子夫婦が、人生紙芝居の制作を依頼してきました。父親に人生紙芝居の話をしたところ、「紙芝居かあ、懐かしいね」と言って、ご本人も乗り気になったそうです。
戦前は子どもたちの娯楽として“街頭紙芝居”が大人気でした。『黄金バット』や『少年タイガー』の作品が有名です。自転車の荷台に紙芝居の舞台を載せた紙芝居屋さんが公園や空き地にやって来るのを、子どもたちは楽しみに待っていました。そのような小さい頃の思い出があったので、抵抗感はなかったのでしょう。

知っているようで、実は知らなかった親の人生

聴き取りでは、息子夫婦にも同席していただき、昔のアルバムなどを一緒に見ながら、子どもの頃のこと、仕事のこと、家族のこと、趣味について、等々、ご本人に伺っていきます。Bさんは頭の中で一生懸命に記憶を辿り、言葉にして伝えて下さるのですが、さすがに1時間を過ぎる頃には疲れたご様子で、初回はそこまでとしました。後日、もう一度訪問し、主に戦争体験について、1時間程聴き取りを行いました。

聴き取りの後、お嫁様に伺った感想では、「私がお嫁に来た頃に、お義父さんは定年退職したので、仕事については詳しくは知らなかった」ということでした。息子様の感想は、「初めて聴く話もあった。親子だと、改めて人生について聴かせて、というのも何だか難しい。かえって第三者のプロの人から聴き取ってもらった方が、父も話しやすかったと思う。いろいろと話せて、父も満足だったのではないか」ということでした。

聴き取りの際に心がけていること

プロの聴き手と言われると恥ずかしくなりますが、私が聴き取る際に気をつけていることは、「事実よりも、心情を聴き取る」ということです。その時にどう感じたのか、そこにその人らしさが表れます。警察の事情聴取ではないので、物事の正確性や起きた順番などは重視していません。とても熱量を持って繰り返し話をされる内容であるならば、その方にとって、大きな出来事だったのだなとか、重要な存在の人物なのだなというように受け止めます。

そしてリラックスした状態で昔語りが始められるよう、昔のアルバムや写真があれば用意してもらいます。「随分お若い時の○○さんが写っていますね。これはどんな時の写真なのですか?」というように、自然に会話が展開できます。

人生紙芝居づくりを通して、改めて家族の人生を見つめる

長い間そばにいると、自分は親のことを知っているような気になりますが、実は知らないことも多いものです。特に自分が生まれる前の親に起きていたことは、当然子どもは見ていませんし、改めて聴く機会もありません。
人生紙芝居を作ることは、家族間では聴いてこなかったことも聴き出すことができ、ご本人にとっても人生総括欲が満たされる良い機会となると言えます。