活用事例

実際に制作した人生紙芝居のエピソード集です。

心を閉ざした失語症の方、人とつながる喜びを再び

閉ざされた心と孤立

デイサービスの利用を始めた90代男性Yさん。脳梗塞の後遺症で、やや重い失語症がありました。相手の言っていることが理解できず、自分の頭に思い浮かぶことも言葉にできず、コミュニケーションがとても難しい状態でした。デイサービス職員もいろいろと声をかけますが、その度にYさんは手を横に振り、「(私は)バカだから」とだけ言って目を閉じ、一切の関わりを拒絶します。

呼び覚まされる養蜂家の誇り

Yさんの人生紙芝居作りでは、Yさんから直接聴き取りができないので、お子様たちの協力を仰ぎました。農家のYさんは田んぼや畑の他に、いち早く養蜂業にも取り組み、養蜂を志す地域の人たちに指導もして、頼りにされていたそうです。しかし、お子様たちは別の道に進んだため、養蜂業についてはよく分からないとのことでした。そこで、図書館の児童書コーナーで、『農家になろうシリーズ「養蜂家」』という写真集を借りてきました。児童向けに、写真で養蜂家の1年間の仕事が分かるようになっています。一言でもいいから、Yさん自身の言葉を引き出して紙芝居に盛り込みたいと思い、その写真集をYさんに見せたところ、Yさんは非常に驚き、そして真っすぐに私の目を見て、「やるのか?」と何度も聞いてきます。どうやら、私が養蜂家を目指していると勘違いしたようなのです。「そうか、そうか」と満面の笑みで、一生懸命に何かを説明してくれるのですが、失語症のため、言っていることがわかりません。でも、自分からコミュニケーションを取ろうとするYさんの姿がありました。そして昔もこのように、教えを乞う後輩たちに、熱心に指導してあげていたのでしょう。

心が開かれ絆が生まれた人生紙芝居

その写真集を参考にしながら人生紙芝居は無事完成。Yさんはデイサービスが大好きになり、私の姿を見つけるとニコニコと手招きし、「おまえ、昔、会ったな」と今度は知り合いの誰かと勘違いされているご様子。良い勘違いなら大歓迎。心許せる人がいるだけで、その空間は心地良いものになります。人生紙芝居作りがYさんとの絆になりました。