コラム
ケアに関するコラム集です。
『ライオンのおやつ』― 最期を彩る思い出の力
『ライオンのおやつ』との出会いと魅力
私の数少ない趣味である「読書」。ジャンルとしては小説。SFや推理小説はあまり読みません。若者が主人公の青春小説をよく読みます。大好きな作家は辻村深月さんです。
『ライオンのおやつ』は介護施設の元同僚に薦められて読みました。
主人公は、癌で余命わずかの若い女性。最期の日々をここで過ごすと決め、ホスピス「ライオンの家」に入居してきます。初めは、何で自分がこのような目に遭わなければならないのか、モヤモヤとした悟り切れない気持ちもある主人公ですが、短くも新たなホスピスでの暮らしの中で、周りの人たちとの関りを通し、気づきや心の変化を遂げていきます。
人との関り以外にも、ライオンの家は瀬戸内海に浮かぶ小島にあるため、窓から見える海のきらめきや空の青さが、時に悶々とする心を癒してくれます。もうたくさんは食べられないけれど、地元食材を活かした優しい食事を口にするたびに、驚きと喜びが内に沸き起こります。清潔でふかふかのお布団に体を沈めれば、安心感が全身を包み、耐え難い痛みが出た時はお薬(モルヒネワイン!)で上手にコントロールしてもらえます。やがて、ウトウトとまどろむ時間と目覚めている時間とを行ったり来たりしながら、自分でも気づかないくらい、まさに眠るように安らかな旅立ちを迎えます。身体は限りなく弱っていくのに、感性は逆に研ぎ澄まされていく。その描写が見事で、引き込まれます。
「思い出のおやつ」が語る人生
タイトルに「おやつ」という言葉が含まれているように、ここライオンの家には「おやつの間」という大きめの部屋があって、毎週日曜日の午後にお茶会が開かれます。このお茶会では、毎回、入居されているお一人の方にスポットが当たり、その方がリクエストした「思い出のおやつ」が提供されます。当時の味や形を忠実に再現して、そのおやつにまつわる思い出話も披露されます。
思い出話には、まさにその人の人生、その人らしさが凝縮されています。なにせ、自らが最後のおやつとして選んだ一品なので、関連する話もまた、極上の味わいなのです。当時の、その人を取り巻いていた環境や、抱えていた思い(喜び、悩み、葛藤、覚悟など)が伝わってきて、胸がいっぱいになります。赤の他人ですらそうなのですから、当の本人にしてみたら、一気にあの頃の自分に引き戻されるような心境になることでしょう。「私は確かにあそこにいた。あの時の自分があって、今の自分へとつながっている」。己の人生の歩みをしっかりと感じることができれば、次の段階として、迫りくる死を素直に受け入れることも可能になるのではないでしょうか。
人生紙芝居とのつながり
「人生紙芝居」は、ライオンの家における「おやつ」と似ていると思います。その方が確かにこの世界で生きてきたということを、改めて感じさせてくれるアイテムとしての共通点です。さらには、おやつを入居者の皆さんと一緒に味わうところも共通しています。
人生紙芝居も、ご本人と共に、家族やデイサービスなどの施設利用者たちの前で上演され、主人公一人の思い出を、皆でかみしめ合うことで、あなたがここで生きてきたことを私たちは忘れないからね、というメッセージを伝えます。
さて、私は、最期に何のおやつをリクエストするのだろうかと考えます。甘党で、毎日のようにおやつを口にしているのですが、私をものがたるような忘れられないおやつに心当たりがありません。もしかしたら、まだ食べたことのない、これから食べるおやつかもしれません。最期の最後のおやつだからこそ、絶対に失敗したくないのですが…。死んでも死にきれない、なんてことにならぬよう、引き続き考えます。
人生紙芝居を
作ってみませんか?
大切な人へ、人生の歩みを讃え、感謝を伝える唯一無二の贈り物